学校での学びがもっと自由に!?今議論されている「柔軟な教育課程」ってどんなもの?

「教育課程」とは、学校が教育目標を達成するために組織する教育の内容や計画のことをいいます。
これまで、国の定めた学習指導要領に基づき、全国の学校でほぼ共通の内容が実施されてきました。しかし、そこにテコ入れをしなければならないという認識が広がってきています。

今回は、文部科学省の教育課程企画特別部会で審議されている内容をご紹介します。

↓公開されている資料は以下のリンクからご確認いただけます↓

教育課程部会 教育課程企画特別部会

なぜ今、「柔軟な教育課程」が必要とされているの?

配布資料には、どの学校にも、学力に課題のある子、特別な才能を持つ子、不登校の傾向がある子、日本語を母語としない子など、様々な背景を持つ子どもたちが在籍している現状が示されています。

  • 小学校では、35人学級あたり約12.5人が家にある本の冊数が少なく学力が低い傾向にあり、約0.8人が特異な才能を持っているとされています。
  • 中学校では、40人学級あたり約15.7人が同様の学力傾向にあり、約0.9人が特異な才能を持っているというデータがあります。
  • 不登校の傾向にある子どもや、学習面や行動面で著しい困難を示す子ども、日本語を家庭であまり話さない子どもも、決して少なくありません。

このような多様な子どもたち一人ひとりの意欲を高め、可能性を開花させるためには、画一的な教育課程ではなく、それぞれのニーズに合わせた柔軟な学びの提供が不可欠です。

「柔軟な教育課程」って具体的にどんな内容なの?

資料では、この「柔軟な教育課程」を実現するための様々な方向性や具体的な取り組みが議論されています。大きく分けて、学校全体として教育課程を柔軟にする試みと、個々の児童生徒の状況に合わせて教育課程を特別にする試みがあります。

学校全体として教育課程を柔軟にする試み

これは、学校全体で時間割や教える内容の順序などを工夫することで、より多様な学びに対応できるようにするものです。

  • 教育課程特例校・授業時数特例校の活用: 現在、「教育課程特例校」という制度があり、特例校として認められた学校では、新しい教科を作ったり教科の内容を一部変更したりすることができます。また、「授業時数特例校」では、年間総授業時間を維持しつつ、一部の教科の授業時間を上限1割まで減らし、その時間をほかの活動に充てることが可能です。資料によると、小学校では約7割、中学校では約8割の学校が、標準授業時数に関して教育課程編成にかかわる学校の裁量を広げることに賛成しています。特に、「年間総授業時数を確保したうえで一定の範囲で教科等間での授業時数の調整を可能とする」ことに期待が集まっています。
  • 授業時間の柔軟な設定: 1コマの授業時間を固定するのではなく、学校の判断で短い時間(15-20分)の学習活動を取り入れたり、2コマ連続の長い時間(90-100分)を確保したりする事例が紹介されています。たとえば、午前中に40分授業を5コマ行った後、午後に短い時間を個別のスキル学習に充てたり、長い時間をかけてじっくり探究的な学習に取り組んだりするなどの工夫がすでに実践されています。
  • 教科を横断した学びの推進: 従来の教科の枠にとらわれず、複数の教科の内容を関連付けて学ぶことで、より深い理解や興味関心を育むことが期待されます。広島県の尾道市の研究開発学校では、教科を減らした時間を使って、表現活動や体験活動を重視した新しい教科「はっさくタイム(表現)」を設け、教科横断的な学びを実践しています。また、学び直しが必要な子ども向けには「はっさくタイム(チャレンジ)」という教科も新設し、個々の進度に応じた学習を可能にしています。
  • デジタル学習基盤の活用: 一人一台端末などのデジタル技術を活用することで、授業の準備や運営にかかる時間を効率化し、生まれた時間を子どもたちの個別のニーズに対応するために活用することが考えられています。資料の調査によると、デジタル学習基盤の活用によって、課題の提示や板書、調べ学習、振り返りなどの活動にかかる時間が短縮される傾向が示されています。

個々の児童生徒の状況に合わせて教育課程を特別にする試み

特定のニーズを持つ子どもたちに対して、通常の教育課程とは異なる、特別な教育課程を提供しようという試みも行われています。

  • 障がいのある児童生徒への通級による指導: 障がいによる学習上または生活上の困難を改善・克服することを目的とした特別な教育課程が提供されます。通常の学級に在籍しながら、必要に応じて専門的な指導を受けることができます。
  • 日本語指導が必要な児童生徒への特別な教育課程: 日本語を母語としない子どもたちが、日本語を使って学校生活を送ったり、学習に取り組んだりできるようになるための特別な教育課程です。これまでの初期的な日本語指導だけでなく、日本語と教科の内容を統合的に学び、思考力や表現力などを育成する「資質・能力の育成のための新たな日本語指導」(仮称)の必要性が議論されています。母語の力を活用したり、生成AIなどのデジタル技術を活用したりすることも検討されています。
  • 不登校の児童生徒への特別な教育課程: 不登校の状況にある子どもたちのために、それぞれの実態に合わせた特別な教育課程を編成する試みが進んでいます。
  • 学びの多様化学校(旧不登校特例校): これまで不登校特例校と呼ばれていた学校では、通常の学校よりも授業時数を少なくしたり、体験活動や探究的な学習を充実させたりするなど、柔軟な教育課程が提供されています。
  • チャレンジクラス(東京都): 東京都では、学校内に不登校の生徒のための「チャレンジクラス」を設置し、生徒の実態に合わせたゆとりある時間割や、個々の得意不得意を生かした学習、情緒の安定を図る生活などが提供されています。多摩市立東愛宕中学校の「あたごSpace」では、リフレッシュタイムを設けたり、個別の学習計画に基づいた指導を行ったりすることで、生徒の登校日数や学習意欲の向上につながっているそうです。
なかま父
なかま父
チャレンジクラスを導入している学校は沖縄にもあるよね!
なかま父
なかま父
ただ、「登校日数」や「学習意欲」を指標にするよりも、本人の心と体の健康や自己肯定感を注視してもらいたいなぁと思うな…

 

 

  • 校内教育支援センターの活用: 学校内に設置された相談室のような場所で、学習のサポートを受けたり、気持ちを落ち着かせたりしながら、徐々に学校生活に戻っていくための支援が行われています。
  • 特定分野に特異な才能のある児童生徒への特別な教育課程: 特定の分野で特異な資質や能力を持つ子どもたちのために、高度な内容を学べる特別な教育課程の設置も検討されています。学校外の大学や研究機関などと連携して、より専門的な学びを提供することも視野に入れられています。

保護者として知っておきたいこと、期待できること

これらの議論が進むことで、子どもたちの個性や特性に合わせた、よりきめ細やかな教育が提供される可能性が広がります。

  • 得意なことをもっと伸ばせる: 特定の分野に才能を持つ子どもたちは、その才能をより深く探求できる機会が得られるかもしれません。
  • 個々に対する丁寧なサポート: それぞれの子どものペースに合わせた丁寧な指導を受けることができるようになることが期待されます。
  • 安心して学校生活を送れる: 不登校の状況にある子どもは、学校内外の様々な支援を受けながら、再び学びに向かうことができるようになるかもしれません。
  • 学校との連携強化: 個別のニーズに対応するためには、学校と家庭、そして地域社会との連携がより一層重要になります。

子どもファーストで柔軟に

これらの新しい取り組みを進めていくうえでは、先生方の負担が増えてしまうという声もありますが、各学校の校長先生が本気になって主導して検討すれば、より柔軟な教育環境が実現することで現場の先生方の自由度も増し、逆に負担の軽減にもつなげることができるはずです。

すべての子どもたちがいきいきと可能性を最大限に伸ばせる場所

国も地方自治体も、学校の先生方も保護者も、地域社会の大人も、目指すべきは共通しているはず!

今後、学校から教育課程に関する情報が発信される際には、ぜひ積極的に耳を傾け、お子さんの学びについて先生方と対話してみてください。

柔軟な教育課程が、未来を担う子どもたちの「学びの多様性」を尊重し、「一人ひとりを大切にする教育」を実現するための重要な一歩となることを期待しています。

 


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